なにを見てるの、あなたはどうなの


すこし前のこと、
今年の6月に生まれた友人の子を抱いた。
女の子だ。

かわいい。ただただ、かわいい。

胸に抱くと、かすかにふわっと、澄んだうすいミルクのような匂いがする。
こわれものを抱いてるようで、力加減をどうしたらいいのか分からない。
なにかを探すように予測不能に動く手がおもしろい。

抱きながら、おれにもこんな頃があったのかとか、
このまま無事に育てよとか、なんとかして今笑わせたいとか思う。

目が合う。黒目がくっきりとしている。
この子の目におれはどう映っているのか。
男であること、28歳であること、
横浜に生まれ育ち色々あって今ぶらぶらしていること。
そんなことは一切分からず、認識もしていないであろう大きな瞳。
この子の前では、ただの“なんかニヤニヤした肌色のやつ”くらいなものか。

自分がそうであるように、この子もまた
ものごころついた頃にはもう
赤子の頃に誰かに抱かれたことなんてきっと覚えていないんだろう。
そう思ってちょっとはかない気分になって見つめ返すと、
キョロッと視線を別の方へ向けたりして、はがゆい。
そして、愛らしい。

またこっちを見る。
“あなたはなに?”
と問いかけてくるようなまなざし。

そんな瞳には以前、会ったことがある。

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川島小鳥写真集 『未来ちゃん』 ナナロク社

かなり話題になった作品なので、
ご存知の方も多いと思われる。

「未来ちゃん」の黒目がちなビー玉のような瞳は
「あなたはなに?」とか「あなたはどう?」とか問うてくる。

「未来ちゃん」を見ているつもりが、
まるで鏡を見ているように
自分自身を見つめさせる。
大仰に言えば、なんだか存在を揺さぶられる。

一瞬一瞬を爆発させるように全力であそび、
いまのど真ん中を生きている「未来ちゃん」は
溌剌として、ほほえましい。
見ていると、ピュアな心が発動してくる。

子どもを見ると妙に老け込んでしまうのはよろしくないと思うけれども、
28年生きてきたことが、なんだかズシッとくる。

男子ではこうはいかない。
それはおれが男子であるからに他ならない。
男の子は馬鹿で、ただそれゆえの抜けのいい気持ちよさのようなものがある。
年齢こそちがうが、同種の生き物である感じがする。

女の子はちがう。
彼女たちは、なんというか、つよい。
ジッと黙って立っていたりすると、
なんだか意味深で、よく分からない存在になる。
でも、妙に真に迫ってくるものがあったりして悩ましい。

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《「BRUTUS 特別編集 合本・写真術」  ㈱マガジンハウス 2011年10月30日発行》

手元にあった雑誌BRUTUSの写真特集によると、
『未来ちゃん』に寄せる写真家・川島小鳥氏の写真術とは、
「作り込まない」ことなのだそうだ。

   写真を撮るという行為自体、
   ある“わざとらしさ”を含んでいますよね。
   だから“こっちを向いてほしい”とか、
   “こう動いてほしい”とかいう僕の意図が出ない方がいい。
           《「BRUTUS 特別編集 合本・写真術」  ㈱マガジンハウス 2011年10月30日発行》

なるほど。そういえば、『未来ちゃん』には、
子どもっぽい媚びが一切と言っていいほどない。

すごいと思うのは、
カットの多くがカメラ目線でないことで、
なんというか、ありのままなのだ。

   そもそも彼女は全精力を上げて自分の人生に集中している
                          《引用元 同上》

らしい。その通りだと思うし、
また川島氏が一年間、彼女と家族同然に寝起きを共にした成果であると思う。
そして何より、カメラを向けても一向におかまいなしの「未来ちゃん」に
被写体としてすごく惚れ込んでいるのがわかる。

川島氏が撮影のルールとして掲げていた「作り込まない」とは、
言い換えれば、つまり「作っている」ということだ。
考えてみればそれもそうだ。
あらかじめ撮影を想定したロケハンもしているだろうし、
カメラを持ってその瞬間を待ちつつ、多少声もかけているはずだ。

でも驚くほど、ドキュメンタリーチックだ。
だから、「なに撮ってんの」とか
「いま、撮った方がいいんじゃない」とか言う声が聞こえてきそうな
カメラ目線のカットがたまに出てくると、ドキッとする。

親が子の成長を見守るように撮影するのとはちがう。
家族でもなく、あかの他人でもなく。
ふしぎな距離感が面白味になっていて、
写真家としての企みがなんだかすごく成功していると思う。

この人は、次はなにを撮るのだろう。
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by hiziri_1984 | 2012-11-19 01:43 | 瀆書体験  

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