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20年前、岩木山で

この夏、3年ぶりに青森県西津軽郡鯵ケ沢町を訪れた。
ここは父の故郷で、いまも祖母が元気に暮らしている。

帰省2日目、岩木山へ行った。
岩木山の麓と八合目をつなぐ津軽岩木スカイラインには、
69ものカーブがある。
これをくねくねと曲がりながら、のぼらなければならない。
必然、下るときも曲がる。
だから、行きと帰りであわせて138回もカーブを曲る。
クルマ酔いせずにいるのは難しい。

岩木山に来るのはこれが初めてではない。
昔、小学校低学年の頃にのぼったことがある。
その時も、クルマだった。

当時、我が家の自家用車はトヨタのクラウンで、
父はしきりに「V8が唸る」という
おそらくCMのナレーションかなんかなのだろう、
それを馬鹿のひとつ覚えみたいに繰り返し口にしながら、
V8エンジンの馬力を楽しむようにアクセルペダルを必要以上に踏み込んで、
坂道のカーブをグングンのぼっていったような気がする。

8合目に着いた。
当時は8合目にドライブインがあって、
そこでソフトクリームかなんかを食べたんじゃないか。

で、8合目からの壮観な眺め。
これが不思議なことに、ぼんやりとした風景を見た記憶しかない。
山、田、村、一つひとつの輪郭がぼやけて
緑の濃淡でできた抽象画のような景色。

それというのも、あまりに昔のことだし、
おそらく父の荒い運転のせいで自分はクルマ酔いしていたはずだから、
景色を眺めるどころではなかったと思うし、
それゆえに8合目からの眺めを
ぼんやりとしか覚えていないんだろうと思っていた。

が、ちがった。そうじゃなかった。
ということを、今さっきフッと思い出した。

あの時、自分は本当に
8合目の景色がぼんやりとしか見えていなかったのだ。

当時、小学1・2年生。
買ってもらったばかりのファミコンに熱中していて、
自分の視力はガタ落ちしていた。
(のち、小学3年生からメガネをかけることになる)

自分の席から黒板の文字が見えなくなっていたことで、
視力の低下を自認していた自分は、
“ファミコンのやりすぎで視力が落ちた”という事実を
両親に隠していた。
なぜかというと、それを知られるとまちがいなく父に怒られるから。
拳骨を食らうから。

だからあの時、同伴の父や従兄弟が景色を楽しむのと一緒になって、
自分もちゃんと見えている態で、「すごいなー」とか言っていたような気がする。
本当は緑の抽象画しか見えていないのに。

一緒に来ていた年上の従兄弟の
「見てみろ、おばあちゃんがこっち向いて手を振ってるぞ」という一言に
「え!本当に見えるのだろうか。目がいいと見えるのだろうか。
 いやそんなはずはない。これはシャレだ」
と内心ハラハラしながら緑の抽象画に目をこらして「え、どこどこ」と返して、
従兄弟たちは「そんなわけねーだろ。アハハハ」みたいな。
からかわれる苛立ちなんかより、
見えていないことがバレる恐怖に意識が集中していた。
岩木山まで行って、何してたんだろう・・・。
そして、肝っ玉の小ささと嘘で誤魔化す癖は、いまも変わっていない。

久石譲の『Summer』を聴きながら書いていたら、
いつのまにか懐古的になって、思わず記憶がよみがえった。

20年前、岩木山で_e0218019_19214590.jpg
久しぶりに故郷に帰って上機嫌な父は、自分から率先して運転。
おかげで、20年前と同じように、
くねくね曲がる岩木スカイラインで自分はクルマ酔いした。

by hiziri_1984 | 2012-09-06 19:25 | 西津軽探訪記(2012.8.15)  

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