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ある日の休憩で


バイトの休憩時間ひとり一服していると、
途中で50代後半くらいのジャンバー姿のおっさんが喫煙所へ入ってきた。
4畳ほどの広さに自分とおっさんのふたりきり。
おっさんは煙草に火をつけるなり、おもむろに話を始めた。

「おんな専用の車両があるってのは、あれ、おかしいだろ」
といういささか憤慨気味の一言からはじまり、
女性は身体的な都合で月に1日2日休むことができるから
急にシフトをズラされたりして困る、
現場の作業場やトイレなどの環境にいちいち文句をつける等など、
男女雇用機会均等法によってかえって不遇・不利が露になった男の立場を
「平均寿命だって女の方がなげーだろ。しぶてぇんだよ、女は」と
締めくくられまで4、5分絶え間なく語り続けた。
どうやらドライバーらしいそのおっさんの現場論を
実際知らなかったことも多くあり、
自分は「なるほど」とか「へぇー」と相槌を入れながら聴いていた。

ちょうど煙草一本、ひとしきり話し終えたおっさんは、
入って来た時よりも幾分晴れやかそうな様子で喫煙所を出ようとした。

と、不意にこちらへ向き直り、
「おれ、女房いるんだよ。子どもだって、ひぃ、ふぅ、みぃ・・・4人いるんだよ」
と一言残して、出ていった。

もしかすると、おっさん、
おれが「こいつはいまだに結婚できないから、
こんな女性偏見みたいなことを言うんだな」と思っている、とでも思ったのだろうか。

色々と現場の話を聴けた。勉強になった。
しかし、なによりも、最後に自分の子どもを
「ひぃ、ふぅ、みぃ」と指を折りながら数えたのがおもしろかった。
子どもが4人もいるとわが子と言えど指折り数えるのかもしれない。
おっさん、わが子の名や顔を今一度思い浮かべながら数えたのだろうか。

腹の中をくすぐられるような感じがして、
妙に清清しい気分になって喫煙所を後にした。
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by hiziri_1984 | 2013-02-28 12:31 | 散文  

江戸前啖呵の炸裂


言わずと知れた、“親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている”である。

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『坊っちゃん』 夏目漱石 (新潮文庫)

この年になって初めて読んだ。
こんなにおもしろいとは知らなかった。

主人公の快傑江戸っ子男子・坊っちゃんが
生まれ育った東京を離れ、四国の中学教師に赴任するところから
小説がグッと勢いづく。

なんといっても、坊っちゃんの江戸前啖呵の炸裂っぷりがいい。笑える。
それがさらに「~だな、もし」なんて言うおっとりのんびりした
四国言葉との対比によって、歯切れのよさが際立っている。

途中、焼いても煮ても食えない慇懃美術教師・野だいこを指して、
坊っちゃんはこんなことを思う。


  野だは大きらいだ。こんなやつは沢庵石をつけて海の底に沈めちまう方が日本のためだ。


単純明快、読んでスカッとする。
私的な感情であっても、威勢のよさで一般的・客観的な見解などは吹き飛ばす。
こういう語り方は、落語、こと東京の落語でよく聴く。

また、野だいこ(「太鼓もち」を由来とした揶揄)というあだ名を
坊っちゃん自らがつけたにもかかわらず、
いつのまにか「野だいこ」から「野だ」になっている。
あだ名が一周して普通の苗字(野田)になっているのも、おもしろい。
「この際いちいち呼ぶのも面倒だ。あだ名も略しちまおう」
なんていう説明くさい一文のかけらもないのもいい。

小説後半、東京では体験したことのなかった、
狭い田舎街ならではの閉鎖的な雰囲気や
じめじめとした人間関係、そこに根づく奸計や嫌がらせに参りながらも、
坊っちゃんは宿敵・赤シャツと野だに復讐を敢行する。

この、小説の山場ともいえるシーン。
自分は緊迫するどころか、読んで脱力した。
それというのも、
復讐の際、坊ちゃんは後で食おうと思っていた生玉子を野だの顔面に投げつけるのだ。

これはやっぱり洒落だろう、と。
「いい気味(黄身)だ」っていう。
100年前の作品のオチをいまあーだこーだ言っても仕方ない。
ただ、一貫した作品における調子というか馬鹿馬鹿しさには感服した。

ネタバレで言ってしまうと、この復讐が本作のいわばクライマックスである。
知恵はないが、腕に自身のある坊ちゃんは玉子を投げつけ、
ここぞとばかりに野だを殴りまくる。
山嵐は自分を辞職へと追い込んだ赤シャツを殴りまくる。

作中、敵役ふたりのねちねちとした嫌がらせが幾度となく繰り返される。
だから、もはやこのシーンまでたどり着くと、
暴力はいけないとかいうモラル・道徳を越えた清清しさや気持ちよさがある。

「殴っちまえ、そんなやつ」が成立する。

そういった意味で、この作品が名作と言われる由縁がなんとなくわかった。
普通一般でダメだろうとされていることがOKになり(肯定されていて)、
それが江戸前の笑いと織り交ざって、おもしろいことになっていると思った。
「300円だから」という安易な理由で読んで、思わぬおもしろさであった。

そういえば、本文とは関係ないけど、
読み終えたあと、ふっと頭に湧いた歌があったのでご紹介します。

■『マシマロ』 奥田民生
http://www.youtube.com/watch?v=vx61fYz-8WI
歌われている人間像のニュアンスがちょっと似てる、のでしょうか。
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by hiziri_1984 | 2013-02-22 23:53 | 瀆書体験  

29歳の男


のんびり読めるのがいいなーと思って、
なんとなく書棚から手にとった。

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奥田民生 『FISH OR DIE』 角川文庫

ユニコーン解散後、しばらく休んでいた頃からインタビューは始める。
とにかく最初は、「休みたかった」「釣りばっかりしてた」言ってばっかりである。
素敵な大人っぷりだ。

インタビューの後には、ソロ1枚目『29』の楽曲解説がある。
そう、この頃の奥田民生は29歳。
くしくも、先日自分も29歳になった。
こういう読書の縁というのはけっこうある。
それにしても29歳というのは「休みたくなる」お年頃なのだろうか。

本書の発売は1999年。
買った当時はたしか中学生。
当時、29歳なんてはるか先のことだと思っていたら、
いつのまにかその年に辿りついている。
あれ以来で読むわけだから、14年前。早いもんだ。
よくぞ手放さなかった。

こうなったら『29』を聴こうと思ったけど、
部屋整理のため、CDはあらかた売ってしまってもはやない。
こういう時に棚からCDを奥からひっぱりだして聴くというのがいいんだなと思った。
とっておけばよかった。手放してはいけなかった。

インタビューの合間に対談が入る。
最初は井上陽水。それから、桜井和寿、矢野顕子、広瀬香美、PUFFY。

ユニコーンの解散、釣り、バンド、ライブ、PUFFYのプロデュースなどの話が続く。

巷にあふれるラブソングや頑張れソングへの反抗心をあらわにしつつ話す、
音楽と詞の作り方がおもしろい。
それでいてとらえどころがない。でも、そこに惹かれる。


   (『イージュー☆ライダー』は)歌ってる相手も、
   同世代に対するメッセージというよりも、自分にという希望ですよね、希望。
   こういうふうなことを言っていられれば楽かなっていうような、自分に対するものなので。
   みんなこういうふうに生きようじゃないかというのとは、ちょっと違うんですよね。
   ぼくはこうしたいんだということで。

   
   え!?『さすらい』聴いて会社やめちゃった人がいるの?しまった!!
   そこでさすらおうと思っちゃいけないんだ(笑)。
   さすらおうって言われたからさすらっちゃ、人間としていけねぇだろ。
   自分はないのか、みたいなですね(笑)。
   だって「さすらお~ぅ~」の「お~ぅ~」がダサくていいなと思って作ったのに。


PUFFYのプロデュースの話なんかは、
中学生当時あまり面白く感じなかったけれども、
いま読むと、アラサーにして勉強とか練習とか言っているのが印象的だった。

名盤『股旅』がそろそろつくられる頃なのかなっていうくらいで、
インタビューは締めくくられる。
あれから14年。ミュージシャン・奥田民生は現役バリバリだ。
久々に近作を聴いてみよう。

その前にまずPUFFYの初期を聴こう。
http://www.youtube.com/watch?v=XRVShbxb87Q
いいなぁ。
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by hiziri_1984 | 2013-02-20 23:58 | 瀆書体験  

東京迷子


よく人に道を聞かれる。

自分の顔は道に詳しそうな顔立ちなのか、
それとも歩く姿に地元の人感が漂っているのか、
理由はわからないけれども、本当によく聞かれる。

一度、銀座のど真ん中でひとりのマダムに
なんとかという名のジュエリーショップの場所を尋ねられたことがあって、
何よりまず、よりによってそれを僕に訊きますか、と思った。
自分はといえばアクセサリーはおろか腕時計さえしたこともなく、
貧乏学生・貧乏フリーターのようなうだつの上がらぬ風貌である。
「すいませんわかりません」と言った後、
尋ねる前にまずこの人なら知っているだろうと見当をつけてから訊いた方が、
きっと目的地へ早く着けますよ、そうマダムに一言申し上げたかった。

外国の方にも、よく尋ねられる。
向こうからやってきていきなり「Hey!」である。
その黒人の彼が「ヨヨギコエン」に行きたいことは分かった。
ただ道のりは知っているけれども、いかんせん英語で説明できず、
結局「I don't know , sorry. 」と言わざるを得なかった、渋谷の午後。
せっかく親に大学まで出させてもらったにもかかわらず、
この体たらくであるから情けない。

そういえば大学生とおぼしき女の子に道順を説明している最中、
「あっ、すいません、“ハスムカイ”ってなんですか」って言われたことがあったっけ。
渋谷は苦手である。

よしんば相手が日本人で、尋ねられた道のりを知っている場合でも、
あの交差点がここから何本目だったか、あの角にあったのは何のお店だったか、
むしろ今説明しているルートじゃない方が近くてわかりやすいかなどと考えるうち、
自分も頭の中で迷ったりして、
説明がしどろもどろになるにつれ、
尋ねた相手の顔が「あーハズレを引いちゃったよ」みたいになっていくことがあり、
すると目的地はおろか相手との距離感までもすーっと遠のき、
空しさがじわーっと胸に広がって、頭の中の地図がかすんでいく。

そう、最初から地図を描けばいいのである。
なぜその時その場でそれをしてあげられないのだろう。
いちばん分かりやすいではないか。
ケータイで地図を見るなんて手もあるのに。
なぜあんなにもアナログになってしまうのか。不思議だ。
そもそも尋ねた人もケータイで探せばよいではないか、と思わないでもないけれども。

百聞は一見にしかず。
図やイラストというものが世の中でどれだけ活躍しているかしれない。

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『図で伝えるデザイン』 パイ インターナショナル

商品カタログ、サービスの説明書、観光案内、建物のフロア図、地図などなど
生活や商品などにまつわる色々なモノ・コトを
わかりやすく、魅力的に表現した図やイラストを網羅した図鑑的一冊。

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主にデザイナーさんの参考書として使われる類の書籍だけれども、
近頃ブームらしい“大人も楽しめる図鑑”のひとつでもあって、
多彩な表現方法の図説はパラパラめくるだけでも楽しめる。

自分は本書を精読し、次また道を尋ねられた際には、
目的地までの道順をスムーズに説き、
さらには道中のおいしいお店情報なども織り交ぜつつ、
愉快に道案内できるよう精進する次第。

本書制作のお手伝いをさせて頂いたこともあってご紹介。
(下手くそな広告みたいなブログ記事になってしまったけれども)

注・ご購入いただくと私の懐に印税が入るわけではございませんので、
  ご興味がありましたら、どうぞきもちよーくお買い求めくださいませ。
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by hiziri_1984 | 2013-02-19 21:34 | 瀆書体験