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『ルート・アイリッシュ』

伊勢佐木町ジャック&ベティにて、
ケン・ローチ監督『ルート・アイリッシュ』を観た。
『エリックを探して』を観て以来の新作である。

なぜ友は、世界で最も危険な道で死ななければならなかったのか。
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戦争をビジネスに「効率化」と「利益の最大化」を推し進め儲ける企業と、
その社員として戦場で働いた男たち。
本作を観て初めて、戦闘員を派遣する民間企業が存在し、
派遣された戦闘員を中心として、戦争が行われていることを知った。
もはや彼らの存在なしに、戦争ビジネスは黒字にならないそうだ。
そして、派遣戦闘員は戦地となった国(イラク)の法で裁かれない
という取り決めが、事態をさらに混迷へと導く。

高額の給料が支払われる一方で、会社員たちは、
戦場で拷問し、撃ち、殺し、消えない記憶を抱えて帰国する。
事実、現在何万人もの元・派遣戦闘員が、日々カウンセリングへ通っている。
「純粋な頃の昔の自分に戻りたい」と吐露する元・会社員の男のけじめと末路。
ケン・ローチは今回も徹底して、社会の中で苦しむ庶民を映す。

いま、サッチャーの映画をやっているけれども、
サッチャー政権は「新自由主義」のもと、
一部の富裕層を潤し、市民から職を奪ったという見解があることを
忘れてはいかんだろう。
(サッチャーの映画を観たわけではないので、何とも言えないけれど)
ケン・ローチ監督は、鉄の女の涙ではなく、
その「英断」によって日々の困窮した暮らしに泣く市井の女の涙に
レンズを向け続ける。
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“話がおかしければ、金の流れを追え”
“正しさとは何かを問い続けること”

名作『ケス』以来、
目的を失わないジャーナリズムで撮るケン・ローチは、
真実を追求し続ける、本質からブレない社会派作家のひとりである。

[公式サイト] http://route-irish.jp/
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by hiziri_1984 | 2012-05-30 14:40 | 映画館で観る  

『ル・アーヴルの靴みがき』(後)

《ネタバレあります》

靴みがき仕事の合間、老人は海岸沿いで昼飯を食おうとする。
ふっと目の前の海に目をやると、
服を着たまま海に浸かった黒人の少年がいて、
不安そうな表情で「ロンドンはどっち?」と聴く。ここは笑った。

そうして、老人はひょんなことから出会った
アフリカ難民の少年を助ける。警察から少年をかくまいながら、
イギリスにいる母に会いに行くという少年に手を貸す。
しかし、「なぜ助けるのか」は、作中一切語られない。

例えば、これがアメリカ映画であれば、
いい年こいてそんな無茶は止せ、警察に捕まるから止せ、
といった周囲の反対を押し切ってまで、
ご政道の乱れを指摘し、自分の思う正義を貫いて少年を助ける老人!
というシーンを入れて、描くんじゃないかなぁと思いながら見ていた。

そういえば、クリント・イーストウッド監督『グラン・トリノ』では、
Mr.アメリカとも呼ぶべき頑固じじいが、在米東洋人の若者を守った。
古きよきアメリカを知る一人の男としての矜持や誇りを胸に秘めつつも、
ニュートラルかつ柔軟な考え方で若者と向き合い、
今の世の中で果たす自分の役割を見定め行動し、
老兵の生き様と死に様の輝きを見せた。

カウリスマキはそうはしない。
『ル・アーヴルの靴みがき』で、
老人はご近所の仲間と協力し、密航のための資金さえ捻出し、
イギリスにいる母に会いに行くという難民の少年を助ける。
なぜだろう。

その“なぜ”が、問われることはない。
多くを語らぬ、静かなる抵抗であり続ける。
なぜそうするのか。
わからない。

ただ、映画館を出たあと、その“なぜ”が不思議と腑に落ちている。
その理由はまだよく分からないけれども、
本作は、映画という非現実を描く作りものが、
現実に対してそのチカラを発揮しうる、
ギリギリの虚構で、ていねいに制作されているように思える。

本作は、黒人の少年のロンドン行きを実現した後、
妻が病気から奇跡的に回復するハッピーエンドで終幕する。
これは、善い行いをすれば、まわりまわって、
自分に善いことがあるということを意味する。
前向きにいまを見つめる視点で、締めくくられるんである。

エンドロールを見ながら、
本作のコピーは「映画史上、最高のハッピーエンド」とあるけれども、
あるいは、「史上最もギリギリのハッピーエンド」であるなぁと思った。
それは、映画は理想や夢を描く物語であるという側面と
新しい視点で現実を見つめる視点をもたらすという側面があると思ったから。

それから、“なぜ”がわざわざ語られないのは、
みんな口にはしないけれども、
いまヨーロッパ諸国で起きている難民問題とその対応策が
「よいわけねーだろう」という庶民に潜在する想いがあるからなのかな、
とも思った。
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自由と平等と博愛の国における、現実に対する静かな抵抗。
カウリスマキ監督作品は今回も、日常を照らす素晴らしい作品であった。

バーの青い目のおばあちゃんがとてもきれいな人であった。
(予告編で「(あなたの女房は)いい女だよ」と言っているおばあちゃん)
[予告編]http://www.youtube.com/watch?v=KkFYfD-2eAQ
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by hiziri_1984 | 2012-05-29 14:44 | 映画館で観る  

『ル・アーヴルの靴みがき』(前)

伊勢佐木町の奥、黄金町に程近い、単館系シアター・ジャック&ベティへ。
横浜ではすっかり数少なくなった
アンダーグラウンド、インディペンデント作品を上映する稀有な映画館。
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自分の高校時代から変わらない。
映画を好きな人が映画を上映する、素敵な映画館であり続けている。
平日昼間の上映だったので、空いてるだろうと思っていたら、
水曜のレディースデイということもあってか、
シニアの夫婦を中心になかなかの盛況っぷり。

アキ・カウリスマキ監督の新作、
『ル・アーヴルの靴みがき』を観た。
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今回の撮影は、本拠地・北欧フィンランドではなく、
タイトルにもあるフランスのル・アーブルでの撮影ではあるけれども、
お馴染みの世界観は健在。

夫が靴みがきの仕事を終えて帰宅する。
夫「帰ったよ」
妻「そうね」
そのやりとりで、気心の通じたふたりであることがじわっと伝わってくる。
この、「おかえり」でもなく「疲れたでしょ」でもなく、「儲かった?」でもない
「そうね」という返答がいい。
カウリスマキ監督は、会話によって、
ストーリーを立体的に組み立てるということを極力しない。
登場人物、特に主人公は、自分の意志や意見を声高に叫ぶこともないし、
いつも状況に引っ張られていく。
彼らは、黙々と、淡々と、行動する。
そこには、自分の身の回りの出来事の
全てを受け入れて生きていく強さがあるように感じられる。

カティ・オウティネン(妻役)の
寂しさ、諦め、温かさ、すべてが同居したような表情はいつも、
慎ましくも、強く、やさしく生きる市井の人々の美しさを表現している。
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by hiziri_1984 | 2012-05-24 23:56 | 映画館で観る  

10番線ホームの建築

JR横浜駅の10番線ホームが好きだ。
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ささやかだけれども、旅情が漂っている感じがするからです。
ここのところ、ぶらぶらしていないので、
ぶらぶらしなければいかんなと思っているところです。
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by hiziri_1984 | 2012-05-22 12:13  

艦隊雲

空がパッとひらけて、遠くまで望める。
雲というより、飛行体と呼びたい雲が浮かんでおりました。
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首都高を抜けて、北柏へ向かうところです。
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5月12日(土)お昼前頃のことです。
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by hiziri_1984 | 2012-05-22 12:08  

夜駆けるサラブレッド

サラブレッドを近くで見てみたい。
職を辞したらぜひとも行こうと思っていた、競馬場へ。
5月10日(木)午後7時、“東京シティ競馬”の大井競馬場。
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場内は、仕事帰りの会社員・OL、自営業風のおっちゃん、大学生、
素朴なカップル、ヤンキー風情のカップルなどなどでなかなか賑わっている。
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一人ひとり、競馬と実生活の金銭的な距離がやや近いように感ぜられ、
ややハードコアな空気が漂っており、
以前行った東京競馬場とは雰囲気がちがう。
錦糸町から直行バスが出ていると知り、なんとなく納得できた。

この日は、南関東牝馬クラシック三冠レースのひとつ、
「東京プリンセス賞(S1)」(ダ1800m)が開催されるとのこと。
早速パドックへ。
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実際に近くで見ると、サラブレッドは、思っていたよりも大きい。
鍛え上げられた逞しい体と、それとは裏腹な、柔和で繊細そうな瞳。
なんて不思議な生き物だと思う。
どことなく歩く様子がぶきっちょな感じだなと思いつつ、
一頭一頭それぞれ歩き方がちがうことが、わかった。
ぐるぐる歩き周る16頭の中で、終始首をリズミカルに上下させている、
一番毛並みが艶やかで、お尻と後ろ脚がガッチリした1頭に目がいった。
せっかくなので、このアスカリーブル号に賭けてみる。これが人生初投票。
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競馬場は全体がくまなく照らされて、白く明るい。でも見上げると闇。
明暗のコントラストがはっきりしすぎていて、嘘くさい感じさえする。
なんだかフワフワして、足元が覚束ない。
しーんと静まり返ったレース場とそれぞれの予想と期待でざわめくスタンド。
世の中には、こんな夜もあるんだなと思う。
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レース場に姿を現した馬たちは続々と返し馬へ。
雨で泥の道となったダートコースを、
土を跳ね上げながら勢いよくギャロップしていく。
騎手の膝から下が規則正しく上下する。
ダートだからか、駆けるスピードより、力強さが印象的だ。
汗をかいた馬体が、照明にあたってより艶やかに見える。
そして、ファンファーレ。
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スタンド最前列で観戦。
「ガッジャン!」とゲートが開いて勢いよく飛び出した馬たちの蹴りが、
地鳴りのようにこちらの足元まで伝わってくる。
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レースに熱中したため、この後の写真は撮れていないけれども、
残り直線400m、逃げる1番人気のエンジェルツイートを
中段から一気に駆け上がってきたアスカリーブルが外からかわしてゴール。
ということで、初馬券が当たった。
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単勝3番人気7.2倍。500円が3600円になって返ってきた。
しかし、もう500円で賭けた馬連は外れたので、計3100円の勝ち。
ともあれうれしい。すばらしく餡子たっぷりの今川焼を買って食う。
後、最終レースを見て、午後9時終了。
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帰りしな、「すべての発見は、パドックにある。」という香里奈に
「たしかにそうでした。」とこたえて、帰路。

また、サラブレッドを見たくなったら、行こうと思う。
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by hiziri_1984 | 2012-05-13 23:36 | 散文  

刑務所のものづくり

部屋の片付けがはかどって、天気がいいことも手伝って、
ちょっと出かけようつって駅前に出かけてみたら、
“刑務所製品市”という珍しいイベントが開催されていて、
読んで字の如く、受刑者がつくったモノを展示・販売しているのだけれども、
その製品というのが高品質で驚いた。
家具、食器、靴、バッグ、衣類、生活雑貨など、
多種多様な製品が並んでいて、
特に民芸和風家具などは「これ職人がつくったんじゃないのか」というくらい
完成度が高く、和箪笥に至っては使っている素材も高級な感じで、
値札を見ると、なんと十数万円の値が付いている。
すごいなーつって、その出来ばえにすっかり感心した自分は、
予算の関係でブックカバーを購入した。
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新潟の少年刑務所製作であるらしい。
売上の一部は被害者の支援金になる、とのことだ。
これは誰がデザインしたのだろうか。
帰って調べよう。

いいモノを見つけたうれしさと、
また所有物が増えるなーという思いの狭間で
ぶらぶら歩いて帰宅した。

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by hiziri_1984 | 2012-05-10 23:47 | 散文  

片付けのフーガ

部屋の片付けがいっこうにはかどらないのは、
ひとえに所有物が多いからであり、
また、テキパキやっていけばいいものを、
「あ!これはあの時の」とか「懐かしいわ~」などと
ひとつひとつを手に取り、仔細に眺めながら、
うっとりしているからである。

そのうちのひとつが、浪人時代の勉強道具である。
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10年ほど前、現役受験に落ちた自分は、
18から19歳の間、代々木ゼミナールに通っていた。
思えば、目的をもって勉強したのは、あれが最初で最後である。
文系の自分は、英・国・日本史を学んでいたのだけれども、
自分がぜひとも入学したいと思っていた大学には
小論文の試験があり、またその出題傾向の独自さゆえに、
その大学専門の小論文講座があった。

その授業のことは、いまでもよく覚えている。

その講座のために週1で横浜から代々木へ通って、
とにかく毎週小論文を書いていた。

担当講師は高橋敏夫というジョン・レノン似の人で、
これは大学入学後に知ったのだけれども、
この高橋氏は気鋭の文芸評論家で、また、
当時はどうだったかわからないけれども、
現在は早稲田大学の教授である。
しかも、学生たちから
「早稲田で一番面白い授業」に選出されるほどの人気教授である。

そんな人の授業を代ゼミで受けていたのだから、
幸運といえば幸運だ。
(早稲田の一文、落ちたし)

講座の内容は、単に試験の傾向と対策というのではなく、
合格目標が芸術学部であったこともあり、
全体のテーマもすこし変わっていて、
大まかにいうと、常識・世界に対する個の発揮といったもので、
発想と発見に重きを置く、とてもラディカルなものであった。
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高橋氏は、穏やかなジェントルマンであったが、
その落ち着いた佇まいの中にも、
時たま見せる、常識・先入観へのアンチテーゼっぷりが
非常に刺激的であり、また、ワクワクした。
生徒というより、文学・芸術を志す者として相対する感じで、
他の講座とはまったく雰囲気が違った。

おかげで、学んだ甲斐もあり、
試験では努力した分を発揮でき、目標を達することができた。
著作『ゴジラが来る夜に』『この小説の輝き』は、
大学時代に読み、いまも自分の書棚に並んでいる。

という風に、
ひとつひとつのモノとその記憶を振り返ったりしているから
いっこうに片付けが進まぬのであり、
ほら、本日もまもなく日が暮れる。

とりあえず、他のテキストは捨てることにして、
この講座で使った原稿などは一応とっておこうつって、保留にして、
引き続き、手を動かす。
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by hiziri_1984 | 2012-05-10 19:46