陽に当たるエロス ― 会田 誠

ふつうこういうものは鑑賞し終わってから書くものだと思うけれども、
鑑賞本番に向けてアドレナリンやらカウパー氏腺液やらが
湧き出て止まらぬので書きヌいておこう。

あたらしいジャパニーズエロスアート。
でもどうやらそれだけではなさそうな・・・

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会田誠展 「天才でごめんなさい」 森美術館

いちおう、まず自分の会田誠体験を振り返っておこう。

会田誠の作品を初めて見たのは10年くらい前。
当時テレビ東京で放送されていた「たけしの誰でもピカソ」という番組で、
少女の髪の分け目がそのまま田園のあぜ道に続いている彼の作品を見た。

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『あぜ道』/1991年(写真1枚目同チラシ裏面より)

テレビの前で驚いた。強烈だった。
なんてユニークなアイディアだ。
今思えば、あれが会田誠だったわけだ。

それからまた別の機会にどこかで見かけたのは、
ウルトラマンに登場する科学特捜隊のフジ隊員が巨大化して
キングギドラに攻められている作品。
半壊したビル街のなかで、半裸にされたフジ隊員が
キングギドラに犯されるように組み伏せられている。
フジ隊員は、それを拒んでいるわけでもなく、
そうしてほしいと思っているようでもなく、受け入れているようなそうでないような、
ただされるがままといった様子で、
「そんなことどうでもいいんだけど」といったような表情で、
虚空を見つめる目が印象的だった。
なんとも見ているこちらの潜在的なところをえぐられた。

その後、昨年、
日本橋高島屋で開催された「ジパング展」で、
人の大きさほどの山椒魚に裸体の少女が添い寝している作品を見た。

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『大山椒魚』/2003年

汚れのないものとグロテスクなものの共演。
絶滅危惧種であるオオサンショウウオを少女がやさしく守るように抱く。
種の保護や継承という意味合いがあるのか。
女性に癒されてその力を回復していくオオサンショウウオ。背景は和柄模様。
まっすぐに解釈すると、失われゆく日本の守護といったところだろうか。
山椒魚は男根のメタファーでもあるか。
リアリティすぎる山椒魚と幻想的な少女のコントラストが愉快だ。

はっきり言えるのは、会田誠の作品に興味が湧いたのは、
そこにアブノーマルやエロをまず感じたからに他ならない。

告知チラシの表面の『滝の絵』もまたエロチックだ。
スクール水着の少女たちが清流で戯れる風景にドキッとさせられる。
ところで、この作品を見て想起したワンシーンがある。

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つげ義春 『ヨシボーの犯罪』  (「ねじ式」小学館文庫より)

この作品は、学生らしき主人公ヨシボーが、
雑誌のグラビアに載っている水着の女性を
ピンセットで刺して食うという妄想からはじまる。
その犯罪の凶器となったピンセットを隠すために
街を自転車で走りまわるという
なんだかいつか夢で見たような内容の作品だ。

あらためて、会田誠の『滝の絵』を見る。

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『滝の絵』/2007-2010

スクール水着の女の子たちは、
ピンセットでブスッといくには、あまりにいたいげで、
未成熟な生き物だ。肉感にも乏しい。
また、彼女たちはまるで置物のようで、
その姿勢のまま永遠に動かないような印象がある。
何かにまたがっていたり、尻をこちらへ向けていたり、
無防備でフェティッシュなポーズのコレクションと言えるかもしれない。
一人ひとりが、フィギュアかマネキンなんじゃないかとも思う。

エロス?フェティシズム?ただのスケベ美術?
なんなんだろう。
ただニヤニヤしながら見ちゃっていいのだろうか。
これは男子たちのアタマの中にある
潜在的な性的欲求のイメージのひとつなのか。

向こうにそびえ立つ山は男根の象徴で、
そこから湧き出て流れる川の水は精液?
とすると、そこで無邪気に気持ちよさそうに遊ぶ女の子たちは・・・
危ういイメージにもなりうる。
と、メタファーの次元だけで見ても、
なんだかこの作品はビクともしないのだ。

しかし、エロ(ス)だとして、
つげ義春のように、暗く、深く、湿った犯罪的な性的欲望の印象が一切ない。

空もあり、日の光もあり、清流があり、
大自然の懐に抱かれて、全体は明るい。
こちらのいやらしい目つきなんて、ものともしない。
実際にこんな光景を目の当たりにしたら、正視できないだろう。
あまりにまぶしくて、いきいきとした生命感にあふれている。

ただ、健康的なシーンではあるけれども、
アブノーマルな雰囲気が漂っているのはたしかだ。
彼女たちの年頃もそうだし、
裸ではなくスクール水着であるのが、むしろ余計にその印象を強める。
滝と大勢のスクール水着という違和感。
斬新で大胆な組み合わせ。おもしろい。

それにしてもスクール水着とは。
“おいおいこんな女の子たちのスクール水着姿を、
 しかもこんなに大勢。なんか、ちょっと、いいのか、おい。でも見ちゃうよなぁ”
というパッと見のインパクトをフックに(完全に男子目線ですけど)
まずこの絵に惹きつけられる。
では、その先に何が見え得るか。

この『滝の絵』をはじめ、
キングギドラの性的攻撃にも動じずに身をまかせているフジ隊員といい、
守護神のように日本の絶滅危惧種を守る少女といい、
女性崇拝的思想とか、
ある種のマゾヒズムというと言いすぎかもしれないけれども、
どこかフェミニズムっぽさを感じる。

そういえば、会田誠の作品には男が出てこない。
(正確に言うと、男が出てくる作品もあるかもしれないが自分はまだ知らない)
出てきたとしても、キングギドラとか、
オオサンショウウオとか、宇宙空間をさまよう巨大なうんことか、
異形のものになって登場する。
なぜか。
それが、男性の本質的な姿だから?
女性の強さや生命力を引き立てるための演出?
自虐的な笑いのため?

それに対して、俗っぽさがみじんもない女性たち。
それも成熟と未成熟の間の微妙なお年頃の子たちだ。
「六甲のおいしい水」とか「ポカリスエット」のCMで表現されるような、
清純で、ピュアで、潤いに満ちたイメージ。
かたい言い方をすれば、汚れのない感じ。

自分は、すこし前に
山は男根、川は精液を象徴するなんて書いたけれども、
むしろ山は母体、川は羊水と捉える方が
正しいメタファーではなかったけか(勉強不足)。

実は、この『滝の絵』を見て想起したものがもう一つある。

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ミケランジェロ 『最後の審判』

どことなく似ていないか?
半裸の者たちが集っていることや全体の構図はもちろん、
色や雰囲気とか。どうだろう。
ん、似てない?全然ちがう?いや、やっぱ似てるって。

  ゴルゴダの丘で磔にされ、人間としての死を迎えたキリストは、
  一度埋葬されるも復活し、様々な奇跡を起こした後に昇天した。
  そして、この世の最後の日に再臨し、
  死者を含めた全人類を、天国と地獄に分ける「最後の審判」に臨むことになる。
  400人近い人がほとんどヌードで登場するこの壁画で、
  ミケランジェロは、人間の筋肉の固有の美と精神性を追求した。
        《「一個人 保存版特集 西洋洋画を読み解く」No.115(2009.12)P56-57 KKベストセラーズ》

上記の引用文を借りれば、
“30人近い女の子がほとんどスクール水着で登場するこの『滝の絵』で、
 会田誠は、日本人固有の美と精神性を追求した。”
と言えるのではないか。

ミケランジェロも、おそらく会田誠も、
作品のテーマにしているのは、
神であり、信仰であり、美だ。(あとエロスも)

ここで、『滝の絵』をグッと目を凝らして見てみる。
すると、彼女たちの中に数人、お腹の部分に縫ってある布によって
それぞれの氏名が分かることに気づく。
氏名を読んでみよう。

高峰、青山、河上、森、滝口、谷、小沢、若林、瀧澤。

ひとり、作品の上に展覧会タイトルが印刷されていて読めないけれども、
皆、氏名に自然にまつわる言葉が必ず刻まれている。

日本古来の神とは、
山や岩や川など自然に存在するあらゆるものを畏怖し、
崇拝する八百万の神であり、
キリスト教をはじめとする一神教とは異なる。
多神教の自然信仰である。

とすると、自然の言葉が刻み込まれた彼女たちは、
神の化身として表現され、そこに存在しているのだろうか。
『滝の絵』の左上部に目をやると、小さなお社が奉ってある。
つまり、あらゆる生命の根源である母体と羊水に満たされたこの空間は、
まさに聖域ということになる。
それが、スクール水着という
いかにも俗っぽい美をまとった少女たちを中心に表現されている、
そのダイナミズムとおかしさ。

『最後の審判』のような神々しさを漂わせながらも、
その一方で、どこか地方の女子中学校の遠足みたいな暢気さもある。
聖と俗が同居し、そのパラドックスが成立している変な空間。

彼女たちがどこかフィギュアっぽく感じられるのは、
永遠に年をとらず、汚れなき姿のままであり続けてほしいという
祈りのようなものが込められているのかしれない。
そして、そこには日本独特のオタク文化さえ包括されている。

なんだか、すごい。

この展示から、あたらしい日本とか日本らしさが見えてくるのかもしれない。
無論、テーマやモチーフはそれだけではないだろう。
観に行くのが楽しみになってきた。
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by hiziri_1984 | 2012-11-22 21:28 | お酒を頂きながら鑑賞  

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