慈愛の顔面 『青い塩』

桜木町の横浜ブルクへ『SHAME-シェイム-』を観に行ったのだけれども、
「あっ、こっちが気になる」つって、韓国映画『青い塩』に急遽変更。

なんでそっちを選んだのかって。
それは、ソン・ガンホが主演だからさ!

2時間ちょっとのこの作品を見続けられたのは、
ひとえに私がソン・ガンホが大好きだからだ。
なんといってもその顔。
語る、見つめる、泣く、メシを食う、酒を飲む、笑う。
この人の顔はほんとうに見応えがある。
画面を占める、その大きい顔面に注目してしまう。

ポスターの、シリアスでややアングラな雰囲気とは対照的に
その中身はというと、わりと王道的なラブストーリーである。(以下ネタバレあります)

ソン・ガンホ演じる伝説のやくざがその世界から足をあらい、
いまは料理教室に通っていて、
ゆくゆくは釜山でレストランをやって
のんびり暮らそうかな、と考えながら
海を眺めているところから映画は始まる。

伝説のやくざ、つまり昔は色々凄かったという過去がある。
その雰囲気を真実味をもって一手に引き受けられるのが、
ソン・ガンホの顔面である。顔面力である。いや顔面技か。
片目がすこしつぶれた表情によって、さらにその味わいが増す。

もちろん演技も。
他作で見られる彼のヤクザ役は、
実際に元・やくざなのではないかと思えるほど凄みがある。
(そうしたシリアスから一気にコミカルへ
もっていけるのも素晴らしいなぁと思う)

で、もどって『青い塩』。
この元・やくざが義理固く、強くて、器がでかい。
母の死を乗り越え、部下の裏切りにあい、
抗争の中で組を築きあげながら生き続けてきたゆえ、
人生のあらゆるものを経験してきたという感じで、
達観者的な風格を醸し出している。

それゆえ、沢尻エリカとほしのあきを足して2で割ったような
ヒロイン(シン・セギョン)を愛する眼差しも、
恋焦がれて想いを募らせるというより、
孫を可愛がる爺のような慈愛である。(実際にかなり歳の差がある)
オトコとしてのギラギラした感じはない。

ヒロインの彼女がスナイパーとしての仕事をまっとうして、
つまりソン・ガンホを殺して友人を救うか、それとも
ソン・ガンホを撃たずに逃がす(一緒に逃げる)か、という選択を迫られた場合、
どちらにせよ、ソン・ガンホ自身は彼女のために死ぬことを
辞さないだろうという覚悟をもっていることは多分に伝わってくる。
だから、撃つのか撃たないのかということに
大きな意味合いを感じないので、緊張感やスリリングさに欠ける。

2人でプリクラに行ったり、スマホでイチャイチャしたり、
観てるこっちが照れくさくなるくらい
ものすごーくベタなラブコメ的ノリになったりするが、
終始ソン・ガンホの包み込むようなやさしさがベースにあるから、
観てる方としてはドキドキしないのですね。

だから、この次の展開を観たいと思わせる推進力が弱い。
それはいわゆる「先が読める」「飽きやすい」ということになり、
自分は途中で「大体分かったし、(映画館を)出ようかな」と思った。
が、数人のお客の鑑賞に水を差すような気もして、
結局出なかったけれども。

ただ、「先が読める」「飽きやすい」ことがすなわち
つまらないかというとそうではなくて、
そもそも映画のつくり方や狙いがおそらくちがっていて、
この監督はワンカット・ワンシーンの光や風景描写の
美しさにこだわっていると思うし、
流れに起伏が少ない分、映像がエモーショナルだ。
2人の穏やかな恋愛風景、元・やくざの男っぷりが、
釜山やソウルの海、丘、エグゼクティブなマンション、塩田といった舞台に映える。
そういえば、モチーフの青といい、元・やくざという設定といい、
なんとなく北野武作品を彷彿とさせる。

恋愛というよりは愛、無償の愛の物語。
キャッチコピーも“その愛は、辛(から)くて切ない。”
『青い塩』だけに。
“その愛は、辛(から)くて切ない。”である。
(まじめなのか、ふざけたいのか、よくわからない変なコピーだ)

ソン・ガンホが体現していたのは、
愛とは与えること。であった。
それは、『タクシードライバー』にて
ロバート・デ・ニーロがジョディ・フォスターに注ぐ眼差しと似ていると思った。

話は変わって、中年やくざをメロメロにするツンデレガールのシン・セギョン。
彼女が、ソン・ガンホに借りたYシャツ一枚になるシーンがあった。
(たしかトランクスも履いていたかも)
『神様、もう少しだけ』の深田恭子かっつって。(古っ)
女子の、メンズYシャツ一枚姿って、韓国男子にもシズるのだね。
小柄な体格のアジア人女性ならではのかわいらしさ、か。
欧米人にもこの感覚はあるのだろうか。

つらつら書いていたらすっかり長くなってしまったけれども、
いや~、ソン・ガンホ、よかった。
韓国映画ムーブメントのさきがけ『シュリ』で
脇役だった頃から10年近く経ち、
今度こそ(?)愛するスナイパーに狙われる主役になり、
ガンガン画面に出てくれてうれしい。

映画館に来るのは、昨年末の『エンディング・ノート』以来。
個人的には、韓国映画に大きなハズレはない記録、更新である。
きちんと真面目につくっているよね。

監督・脚本:イ・ヒョンスン 『青い塩』 
http://www.aoi-shio.com/top.html
[PR]

by hiziri_1984 | 2012-03-21 01:06 | 映画館で観る  

<< どうか、ただのオカルトネタであ... いま、読まなきゃいけないと思っ... >>